ピタゴラス数の定義
$a^2+b^2=r^2$を満たすような正の整数$(a,b,r)$の組をピタゴラス数という.$a^2+b^2=r^2$は幾何的には三平方の定理としてもよく知られている.三平方の定理はピタゴラスの定理ともいう.直角三角形には三平方の定理が成り立っているが,その辺がピタゴラス数になっているとき,その直角三角形をピタゴラス三角形という.ピタゴラス三角形は任意の直角三角形ではないことに注意が必要である.
原始ピタゴラス数の定義
【定理】ピタゴラス数$(a,b,r)$に対して,すべて定数$k$($k$は正整数)倍した$(ka,kb,kc)$もまたピタゴラス数である.
【証明】ピタゴラス数$(a,b,r)$が満たすべきピタゴラスの定理\[ a^2+b^2=r^2 \]の両辺に$k^2$($k$は正整数)を掛けると\[ k^2a^2+k^2b^2=k^2r^2 \]となり,ピタゴラス数の定義に戻るとピタゴラスの定理の各項の平方根のうち正のものの3つ組がピタゴラス数であることから,$(ka,kb,kr)$もまたピタゴラス数である.
このように$(a,b,r)$と$(ka,kb,kr)$は3つ組の数字は違うものだが,違いは定数倍のみであるため,同じものとみなす.つまり,3つ組の数の最大公約数が1となっているもののみを考える.このようなピタゴラス数のことを原始ピタゴラス数という.以下では特段区別の必要がないときには,原始ピタゴラス数のことを単にピタゴラス数という.
ピタゴラス数生成公式
【定理】ピタゴラス数$(a,b,r)$の最大公約数が1のもの(原始ピタゴラス数)は,ある正の整数$m,n$を用いて\[ a=m^2-n^2,\quad b=2mn,\quad c=m^2+n^2 \]という形で表すことができる.
まず,次の2つの補題を証明しよう.
【補題1】原始ピタゴラス数$(a,b,r)$について,$a$が奇数ならば$b$は偶数,$a$が偶数ならば$b$は奇数である.
【補題1の証明】$(a,b,r)$を原始ピタゴラス数とする.もし,$a,b$の両方が偶数である,$a=2s, b=2t$($s,t$はともに正整数)であると仮定するとピタゴラスの公式より\[ (2s)^2+(2t)^2=2^2s^2+2^2t^2=2^2(s^2+t^2)=r^2 \]となるので$r$も偶数である.つまり$(a,b,r)$の最大公約数は少なくとも2であるから,原始ピタゴラス数が満たすべき性質である最大公約数が1であることに反する.よって$a,b$がともに偶数であることは不適.
また,$a,b$がともに奇数であるとき,すなわち$a=2s+1,b=2t+1$であるとするならば,ピタゴラスの公式より\[ (2s+1)^2+(2t+1)^2=2^2(s^2+t^2+s+t)+2=r^2 \]となり,$r^2$が偶数ならば4で割るとあまりが0であり,$r^2$が奇数ならば4で割るとあまりが1であることに矛盾する.よって$a,b$がともに奇数であることは不適.
ここまでより$a$と$b$のどちらか一方が奇数でもう一方が偶数であることがわかる.ピタゴラスの公式において$a^2$と$b^2$を入れ替えても一般性は損なわれないので,ここでは$a$が偶数,$b$が奇数,すなわち$a=2s,b=2t+1$とすると,\[ (2s)^2+(2t+1)^2=2^2(s^2+t^2+t)+1=r^2 \]で$r^2$は奇数,つまり$r$は奇数である.
【補題2】原始ピタゴラス数$(a,b,r)$について,$\frac{r+a}{2},\frac{r-a}{2}$はともに平方数である.
【補題2の証明】$\frac{r+a}{2},\frac{r-a}{2}$のどちらか一方が平方数でないとすると,その積は\[ \frac{r+a}{2}\cdot \frac{r-a}{2} = \frac{b^2}{4} \]であるから,$\frac{r+a}{2},\frac{r-a}{2}$は共通因子$p\geq 2$をもつ.つまり,$r+a=2up,r-a=2vp$($u,v$は正整数)と書ける.よって\[a=(u-v)p,\quad r=(u+v)p \]となるから,$a$や$r$は$p$の倍数となり,$b$も$p$の倍数であるから,原始ピタゴラス数であることに反する.よって,$\frac{r+a}{2},\frac{r-a}{2}$はともに平方数で互いに素である.
【定理の証明】補題2より$\frac{r+a}{2}=m^2$,$\frac{r-a}{2}=n^2$($m,n$は互いに素な正の整数)と書けるので,\[ a=m^2-n^2,\quad r=m^2+n^2 \]となる.これらはいずれも奇数である.また,この$a,r$をピタゴラスの公式に代入すると$b=2mn$ということもわかり,これは偶数である.つまり補題1も満たしている.よって定理が証明できた.